―「審査で通る」だけでなく「経営に役立つ」会議にする方法―

目次
- ISMSマネジメントレビューとは何か ― 単なる年次会議ではない
- マネジメントレビューで必ず確認すべきインプット(入力情報)
2-1. 前回レビューの結果と処置状況
2-2. 外部・内部の課題の変化
2-3. 利害関係者のニーズ・期待の変化
2-4. 情報セキュリティパフォーマンス
2-5. 利害関係者からのフィードバック
2-6. リスクアセスメントと対応計画
2-7. 継続的改善の機会 - マネジメントレビューで決定すべきアウトプット
- ISMSマネジメントレビューの実施ステップ(実務版)
- マネジメントレビューで頻発する不適合と防止策
- まとめ ― マネジメントレビューは「経営と情報セキュリティを結ぶハブ」
1. ISMSマネジメントレビューとは何か ― 単なる年次会議ではない
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)におけるマネジメントレビューは、
「トップマネジメントが、組織のISMS全体を見直し、今後の方向性を決める場」です。
JIS Q 27001:2023(ISO/IEC 27001:2022と同等規格)では、次のように定められています。
トップマネジメントは,組織のISMSが適切,妥当かつ有効であることを確実にするために,
あらかじめ定めた間隔で,ISMSをレビューしなければならない。
ここでいう「適切・妥当・有効」とは、例えば次のような状態を指します。
- 適切:事業内容・規模・リスクの大きさに対して、ISMSの範囲やルールが現実に合っているか
- 妥当:定めた方針や目標が、利害関係者の期待や法令要求に見合っているか
- 有効:方針やルールが「形だけ」でなく、結果としてインシデント低減やリスク低減につながっているか
マネジメントレビューは、次の3点を実現するための「経営会議」です。
- ISMSの現状をトップマネジメントが把握する
- 問題・リスク・改善機会を洗い出し、方針を決定する
- 決定内容を、具体的な改善活動と次年度の運用(PDCA)につなげる
その意味で、マネジメントレビューは
「情報セキュリティの現場」と「経営層」を結びつける、唯一の公式な場とも言えます。
2. マネジメントレビューで必ず確認すべきインプット(入力情報)
規格では、マネジメントレビューで検討すべき事項を明確に列挙しています(JIS Q 27001 9.3.2)。
どれか一つでも抜けると、不適合となるリスクが高いポイントです。
2-1. 前回レビューの結果と、その後の処置状況
- 前回のマネジメントレビューで決定した事項
- それに基づいて実施した是正・改善の内容
- 実施状況(完了/未完了、その理由、効果の有無)
※「決めただけで終わっていないか?」を確認する、重要なチェックです。
2-2. 組織を取り巻く外部・内部の課題の変化
例:
外部の課題
- 新しい法令・ガイドラインの制定
- 取引先からのセキュリティ要求の変化
- サイバー攻撃の動向、業界でのインシデント
内部の課題
- 組織改編、M&A、事業変更
- 働き方の変化(在宅勤務・クラウド利用拡大)
- 人材不足・スキル不足、キーメンバー退職
これらの変化は、ISMSのスコープ・リスク評価・対策方針を見直す「きっかけ」となります。
2-3. 利害関係者のニーズおよび期待の変化
利害関係者例:
- 顧客・取引先
- 親会社・株主
- 従業員・協力会社
- 規制当局
インプット例:
- セキュリティチェックシート・監査結果
- 暗号化要求、ログ提出要求などの高度な要請
- 使いづらいルールへの改善要望
2-4. 情報セキュリティパフォーマンスに関するフィードバック
含めるべき主な項目:
- 不適合・是正処置の件数と傾向
- ログ監視結果、脆弱性診断、パッチ適用状況
- 教育受講率・テスト結果
- 内部監査の重要事項・繰り返し事項
- 情報セキュリティ目標の達成状況
「傾向」「原因」「経営として注目すべき点」を示すと効果的です。
2-5. 利害関係者からのフィードバック
- 顧客からの問い合わせ・クレーム
- 外部審査機関からの指摘事項
- 社内改善提案
一見関係なさそうな声にも、ルール形骸化のヒントが含まれます。
2-6. リスクアセスメント結果とリスク対応計画の状況
- 最新のリスク一覧・リスクレベルの変化
- 顕在化した新リスク(生成AI、クラウド移行など)
- リスク対応計画の進捗
- 残留リスクが許容できるか
トップマネジメントが特に注目すべきポイントです。
2-7. 継続的改善の機会
- コストを抑えつつ同等以上のセキュリティを実現
- 効率化や自動化に関する提案
- 他社のベストプラクティス
“問題”だけでなく、“改善のアイデア”もインプットに含めると前向きな議論になります。
3. マネジメントレビューで決定すべきアウトプット(出力情報)
JIS Q 27001 9.3.3では結果として以下が必須です。
3-1. 継続的改善の機会
- ISMS全体の改善方向性
- ルール・手順・教育内容の見直し案
- 運用効率化の検討
「何を、いつまでに、どのレベルまで」改善するかを明示します。
3-2. ISMSに対する変更の必要性
例:
- 適用範囲の変更
- 方針・目的の見直し
- リスクアセスメント手法の変更
- 人員・予算・ツールの見直し
- 組織体制(CISO等)の再編
これらの決定事項は「文書化」して証跡として残す必要があります。
4. ISMSマネジメントレビューの実施ステップ(実務版)
STEP 1:実施計画を立てる(頻度・範囲・参加者)
- 年1回以上が目安(審査上ほぼ必須)
- 臨時開催推奨ケース:組織改編・重大インシデント・事業変化
- 決めること:時期、参加者、資料締切など
STEP 2:事務局がインプット資料を収集・整理する
- 内部監査結果
- 情報セキュリティ目標の達成状況
- インシデント・不適合・教育データ
- KPI/メトリクス
- リスクアセスメント結果
- 前回指示事項フォロー
- 外部・内部課題まとめ
資料は「要約+ポイント」で構成することが重要。
STEP 3:レビュー会議の実施(トップ参加)
検討観点:
- 現状のISMSと事業戦略の整合性
- リスクレベルが許容範囲か
- 人員・予算が適切か
- 顧客要求と現状にギャップはないか
- 事業計画とセキュリティ投資の連動
トップからの“意思表示”を必ず引き出すことが重要。
STEP 4:アウトプット(意思決定)の明確化
典型例:
- 改善指示
- 情報セキュリティ目標の見直し
- 新リスクへの対応方針
- ツール導入や専門人材の検討
- CISO任命など組織体制の変更
「誰が・何を・いつまでに」を明確化する。
STEP 5:議事録の文書化と証跡の保存
必要事項:
- 開催日時・場所・参加者
- 審議したインプット(9.3.2対応)
- トップの判断
- アウトプット(9.3.3対応)
- 前回との比較・フォロー状況
インプットとアウトプットの紐付けが重要。
5. マネジメントレビューで頻発する不適合と、その防止策
不適合例1:インプットの一部欠落
対策:チェックリスト運用・テンプレート化
不適合例2:意思決定がない報告会化
対策:議題に「今後の方針」を必ず設定し、最後にトップの決定事項をまとめる
不適合例3:前回指示のフォロー不足
対策:議事録の1ページ目に前回アウトプットを掲載
不適合例4:議事録の保存不足/内容が薄い
対策:フォーマット統一・文書管理手順で保管ルールを定義
6. まとめ ― マネジメントレビューは「経営と情報セキュリティを結ぶハブ」
ISMSのマネジメントレビューは、
- セキュリティレベル向上
- 経営層のリスク理解
- 投資・人材・体制整備の判断
を行う重要プロセス。
形式的に行うのではなく、
- 自社の事業に合わせた議題設定
- 経営層が意思決定しやすい資料作り
- レビュー結果を翌年度運用に反映
が、ISMSを“経営に役立つ仕組み”に育てる鍵となります。
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