【保存版】ISO/IEC 27001:2022に対応したISMSマネジメントレビューの実務ガイド

―「審査で通る」だけでなく「経営に役立つ」会議にする方法―

目次

  1. ISMSマネジメントレビューとは何か ― 単なる年次会議ではない
  2. マネジメントレビューで必ず確認すべきインプット(入力情報)
     2-1. 前回レビューの結果と処置状況
     2-2. 外部・内部の課題の変化
     2-3. 利害関係者のニーズ・期待の変化
     2-4. 情報セキュリティパフォーマンス
     2-5. 利害関係者からのフィードバック
     2-6. リスクアセスメントと対応計画
     2-7. 継続的改善の機会
  3. マネジメントレビューで決定すべきアウトプット
  4. ISMSマネジメントレビューの実施ステップ(実務版)
  5. マネジメントレビューで頻発する不適合と防止策
  6. まとめ ― マネジメントレビューは「経営と情報セキュリティを結ぶハブ」

1. ISMSマネジメントレビューとは何か ― 単なる年次会議ではない

ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)におけるマネジメントレビューは、
「トップマネジメントが、組織のISMS全体を見直し、今後の方向性を決める場」です。

JIS Q 27001:2023(ISO/IEC 27001:2022と同等規格)では、次のように定められています。

トップマネジメントは,組織のISMSが適切,妥当かつ有効であることを確実にするために,
あらかじめ定めた間隔で,ISMSをレビューしなければならない。

ここでいう「適切・妥当・有効」とは、例えば次のような状態を指します。

  • 適切:事業内容・規模・リスクの大きさに対して、ISMSの範囲やルールが現実に合っているか
  • 妥当:定めた方針や目標が、利害関係者の期待や法令要求に見合っているか
  • 有効:方針やルールが「形だけ」でなく、結果としてインシデント低減やリスク低減につながっているか

マネジメントレビューは、次の3点を実現するための「経営会議」です。

  • ISMSの現状をトップマネジメントが把握する
  • 問題・リスク・改善機会を洗い出し、方針を決定する
  • 決定内容を、具体的な改善活動と次年度の運用(PDCA)につなげる

その意味で、マネジメントレビューは
「情報セキュリティの現場」と「経営層」を結びつける、唯一の公式な場とも言えます。


2. マネジメントレビューで必ず確認すべきインプット(入力情報)

規格では、マネジメントレビューで検討すべき事項を明確に列挙しています(JIS Q 27001 9.3.2)。
どれか一つでも抜けると、不適合となるリスクが高いポイントです。


2-1. 前回レビューの結果と、その後の処置状況

  • 前回のマネジメントレビューで決定した事項
  • それに基づいて実施した是正・改善の内容
  • 実施状況(完了/未完了、その理由、効果の有無)

※「決めただけで終わっていないか?」を確認する、重要なチェックです。


2-2. 組織を取り巻く外部・内部の課題の変化

例:

外部の課題

  • 新しい法令・ガイドラインの制定
  • 取引先からのセキュリティ要求の変化
  • サイバー攻撃の動向、業界でのインシデント

内部の課題

  • 組織改編、M&A、事業変更
  • 働き方の変化(在宅勤務・クラウド利用拡大)
  • 人材不足・スキル不足、キーメンバー退職

これらの変化は、ISMSのスコープ・リスク評価・対策方針を見直す「きっかけ」となります。


2-3. 利害関係者のニーズおよび期待の変化

利害関係者例:

  • 顧客・取引先
  • 親会社・株主
  • 従業員・協力会社
  • 規制当局

インプット例:

  • セキュリティチェックシート・監査結果
  • 暗号化要求、ログ提出要求などの高度な要請
  • 使いづらいルールへの改善要望

2-4. 情報セキュリティパフォーマンスに関するフィードバック

含めるべき主な項目:

  • 不適合・是正処置の件数と傾向
  • ログ監視結果、脆弱性診断、パッチ適用状況
  • 教育受講率・テスト結果
  • 内部監査の重要事項・繰り返し事項
  • 情報セキュリティ目標の達成状況

「傾向」「原因」「経営として注目すべき点」を示すと効果的です。


2-5. 利害関係者からのフィードバック

  • 顧客からの問い合わせ・クレーム
  • 外部審査機関からの指摘事項
  • 社内改善提案

一見関係なさそうな声にも、ルール形骸化のヒントが含まれます。


2-6. リスクアセスメント結果とリスク対応計画の状況

  • 最新のリスク一覧・リスクレベルの変化
  • 顕在化した新リスク(生成AI、クラウド移行など)
  • リスク対応計画の進捗
  • 残留リスクが許容できるか

トップマネジメントが特に注目すべきポイントです。


2-7. 継続的改善の機会

  • コストを抑えつつ同等以上のセキュリティを実現
  • 効率化や自動化に関する提案
  • 他社のベストプラクティス

“問題”だけでなく、“改善のアイデア”もインプットに含めると前向きな議論になります。


3. マネジメントレビューで決定すべきアウトプット(出力情報)

JIS Q 27001 9.3.3では結果として以下が必須です。


3-1. 継続的改善の機会

  • ISMS全体の改善方向性
  • ルール・手順・教育内容の見直し案
  • 運用効率化の検討

「何を、いつまでに、どのレベルまで」改善するかを明示します。


3-2. ISMSに対する変更の必要性

例:

  • 適用範囲の変更
  • 方針・目的の見直し
  • リスクアセスメント手法の変更
  • 人員・予算・ツールの見直し
  • 組織体制(CISO等)の再編

これらの決定事項は「文書化」して証跡として残す必要があります。


4. ISMSマネジメントレビューの実施ステップ(実務版)

STEP 1:実施計画を立てる(頻度・範囲・参加者)

  • 年1回以上が目安(審査上ほぼ必須)
  • 臨時開催推奨ケース:組織改編・重大インシデント・事業変化
  • 決めること:時期、参加者、資料締切など

STEP 2:事務局がインプット資料を収集・整理する

  • 内部監査結果
  • 情報セキュリティ目標の達成状況
  • インシデント・不適合・教育データ
  • KPI/メトリクス
  • リスクアセスメント結果
  • 前回指示事項フォロー
  • 外部・内部課題まとめ

資料は「要約+ポイント」で構成することが重要。


STEP 3:レビュー会議の実施(トップ参加)

検討観点:

  • 現状のISMSと事業戦略の整合性
  • リスクレベルが許容範囲か
  • 人員・予算が適切か
  • 顧客要求と現状にギャップはないか
  • 事業計画とセキュリティ投資の連動

トップからの“意思表示”を必ず引き出すことが重要。


STEP 4:アウトプット(意思決定)の明確化

典型例:

  • 改善指示
  • 情報セキュリティ目標の見直し
  • 新リスクへの対応方針
  • ツール導入や専門人材の検討
  • CISO任命など組織体制の変更

「誰が・何を・いつまでに」を明確化する。


STEP 5:議事録の文書化と証跡の保存

必要事項:

  • 開催日時・場所・参加者
  • 審議したインプット(9.3.2対応)
  • トップの判断
  • アウトプット(9.3.3対応)
  • 前回との比較・フォロー状況

インプットとアウトプットの紐付けが重要。


5. マネジメントレビューで頻発する不適合と、その防止策

不適合例1:インプットの一部欠落

対策:チェックリスト運用・テンプレート化

不適合例2:意思決定がない報告会化

対策:議題に「今後の方針」を必ず設定し、最後にトップの決定事項をまとめる

不適合例3:前回指示のフォロー不足

対策:議事録の1ページ目に前回アウトプットを掲載

不適合例4:議事録の保存不足/内容が薄い

対策:フォーマット統一・文書管理手順で保管ルールを定義


6. まとめ ― マネジメントレビューは「経営と情報セキュリティを結ぶハブ」

ISMSのマネジメントレビューは、

  • セキュリティレベル向上
  • 経営層のリスク理解
  • 投資・人材・体制整備の判断

を行う重要プロセス。

形式的に行うのではなく、

  • 自社の事業に合わせた議題設定
  • 経営層が意思決定しやすい資料作り
  • レビュー結果を翌年度運用に反映

が、ISMSを“経営に役立つ仕組み”に育てる鍵となります。


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